TAO BOOKS
『逃(TAO)ー異端の画家曹勇の中国大脱出』は1995年に文芸春秋より刊行された本です。
1988年夏、東京の美大生だった著者が中国の西の果てのカシュガルでチベット大学の美術教師、中国人画家の曹勇と出会います。著者は翌年2月に北京で開かれるエネルギー溢れる芸術家の個展を訪れることに。1989年春、個展は国内外のメディアに紹介され、盛況だったものの、個展最終日に公安局の手入れがあり、絵画を没収されてしまいます。民主化運動の高まる中、逮捕も危ぶまれた事態になり、二人は結婚して日本へ脱出しようとしますが、手続きのために辿り着いたチベットでは大規模な独立運動が起こり、戒厳令が敷かれることに。難路を抜けてチベットから脱出を果たすも、引き続いて、民主化要求の学生のハンスト、ついで天安門事件が勃発し、中国全土に戒厳令が敷かれてしまいます。八ヶ月間の逃避行を経て、ついに日本への脱出を果たすまでの記録を軸に文化大革命時の苦難の子供時代を経て、チベットの天地に自由を求めた若き芸術家・曹勇の数奇な人生の物語を描いています。
冷たい水と熱い水が激しく混じり合うような歴史の過渡期の時代。この本もエネルギーの激しい交換によって産まれた時代の産物だと思います。
1995年秋、第17回講談社ノンフィクション賞受賞。1996年、相米慎二監督が映画化を計画して、TAOの逃避行経路を辿って旅しましたが、中国ロケの難しさから断念した経緯があります。日本語版に続いて、1997年、スペイン語版、2007年、英語版、2011年、ポーランド語版が刊行。英語版は2009年、イギリスのWorld Book Dayのイベント『Sparead The World』の50冊に選考されました。 グラミー賞のナショナル・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツ・アンド・サイエンスの会長ニール・ポートノウ氏が本を読んで感動されたそうで、曹勇のロサンジェルスでの個展や北京のギャラリーを訪れました。
●スペイン バルセロナのキルケ出版社から1997年にハードカバー 1998年にペーパーバック版刊行。
Tao Escapada de China del pintor disidente Cao Yong
Translated by Antonio Cabezas CIRCE BOLSILLO
●イギリス ロンドンのポートベロブックスから2007年8月に英訳版ハードカバー 2008年7月にペーパーバック版が刊行。
Tao On The Road and On The Run IN OUTLAW CHINA
Translated by Alison Watts Portobello Books
2009年、World Book Dayのイベント
『Spread The World』の50冊に選考。
●ポーランド ポーランド語版が Zysk i S-ka出版社から2011年刊行。
『TAO - Tułaczka wyjętych spod prawa uciekinierów po Chinach』
Translated by Tomasz Bieroń,
英訳版TAOの書評より
●最も感動するのは、TAOは旅の日常の喜びから絶えず悩ませる脅威まで、その全ての美しさと災難のうちに若い女性が世界を発見するスリルを描き切った簡潔で真情あふれた愛の作品であることだ。
- イギリス・ガーディアン
●逞しく、過酷で感傷的なユニークな体験記。TAOは読者がその著者、旅の中で青春期の愛の夢に入り込んだ一人の日本の美学生の、いまだ無垢な目を通して、八ヶ月間の人生の節目となる出来事を物語る。この本は変化する中国の様相の歴史上、しかるべき位置を占める。
- コリン・サブロン(旅行記作家)
●素晴らしい旅行記は旅そのもののように新しい世界への扉を開く。 今、1冊の興味深い本が中国の地方に対する我々の共通のヴィジョンを捕らえようとしている。多くの映画監督がこの本を魅力的なロードムービーにしたがるだろう。北京がチベットや中国でのロケを許せばの話しだが。
- ローリー・マクレーン(旅行記作家)
受賞時、選考員の先生からの書評
●『逃(TAO)』は、波乱万丈の物語である。まるで活劇映画でも見ているかと思うくらい、次から次へ押し寄せる危機的状況の中を手に手を取って逃避行をつづける異端の中国人画家と日本人女性の美校生、しかも舞台背景には、天安門事件あり、チベット暴動ありと、激動の時代そのまま。手に汗を握りつつ一気呵成に読んでしまった。事実は小説よりも奇なりとはよくいったものだと思う。独特の若さあふれる文章も小気味よい。
…立花隆氏
●『逃』は、中国人画家・曹勇との出会い、官憲の弾圧・監視をかいくぐり、結婚して日本への脱出を果たすまでの体験を綴った記録である。取材によるものではなく、そのほとんどが身をもって受け止めた出来事であるために、旅行者や平穏な滞在者には覗き見ることのできない中国の姿が生々しく描き出されている。若い世代の逞しい生命力に打たれた。
…黒井千次氏
●『逃(TAO)』は、当世の若い日本人女性ならではの冒険的大陸彷徨恋愛譚。チベットが主舞台という演出効果。現代なのに古代か戦国時代のような奇妙な感覚がおもしろいのかもしれない。
…柳田邦雄氏
TAOの旅の経路と曹勇のチベットの旅の経路の地図
1988年8月 カシュガルにて
1989年2月 北京の曹勇の個展にて
1989年2月 シナヴァンギャルドにて
1989年4月 海南島 三亜にて
1989年6月 大理 白族のバザール
1989年7月 ラサ チベット大学の宿舎にて
1989年7月 ゴルムドにて
1989年8月 ラサ チベットの犬たちと